お金のはなし
はじめて自分のお金で実家の母を旅行に連れて行った。
母はふだんあまり外へ出かけない。
自分が出かけることで家事や祖父の世話を誰かに頼んだりするのを申し訳なく思う人だからだ。
旅行は私が言い出して、私が日程を決め、私が箱根のホテルを予約した。
母は悪いねえ、と言いながら、でもすごく嬉しそうだった。
上京してきた母と一緒に観光して、温泉に入って、美味しいものを食べた。
母は毎日インターネットで箱根のレストランや観光地を調べていたらしく、すごく詳しくなっていた。
母の手帳には行ってみたいお店がたくさんメモしてあった。
本当に楽しそうな母を見て、
ああ、お金を稼ぐということは、自分以外の誰かを幸せにする力を得ることなんだ、と思った。
ずっと、自分でお金を稼げるようになったら好きな服やバッグが買えたり美味しいものを食べたりできるようになるから、そのために働こうと思っていたけど、
こんなに素晴らしいお金の使い方があるんだということに気がついた。
世の中はお金が全てではないけど、
私はたくさんお金が欲しい。
自分が必死に稼いだお金は、なるべく好きな人たちを楽しませるために使いたい。
自分の好きな人たちを守れるように使いたい。
そういうお金を稼ぎたい。
そう思うと、いつも憂鬱な日曜の夜にすこし勇気が湧いてくるのだった。
世界の見え方が変わった気がした。