牛乳寒天のはなし
うちの母はよくおやつを手作りしてくれた。
昔、兄が生まれて間もない頃
すごく田舎に住んでいてお店もなく、お金もそこまでなかったので
家にあるものでおやつを使る習慣がついたのだそうだ。
何度か転勤をしてそのド田舎から適度な田舎に実家は移ったが、
台所にはいつも寒天や、ゼラチンや、ホットケーキミックスや、ゼリーやプリンの素が常備されていた気がする。
それがあまり当たり前ではないことに気づいたのは1人で暮らすようになってからだ。
べつに手が込んでいたり豪華だったりするわけではないのだけど、
寒天と牛乳とみかんの缶詰で作ってくれた牛乳寒天とか、
ホットケーキミックスと干しぶどうで作ってくれた蒸しパンとかが時々無性に食べたくなる。
誕生日には少し手をかけて、スポンジを焼くところからケーキを作ってくれた。
生クリームを泡立てケーキに塗るのが私と妹の仕事だった。
母のつくるおやつの味はどこへ行っても買うことができないのだけど、
牛乳寒天だけはどこで買っても同じ味がするように思う。
少しぼんやりした、でも優しい味がする。
仕事の帰りにコンビニへ寄るとき、
たくさんのスイーツが並んでいるなかで牛乳寒天を手に取る。
家で1人で牛乳寒天を食べながら、母のことを思い出す。
来年で24歳。
母が兄を産んだ歳に少しずつ近づいている。